低酸素トレーナーの資格取得の際に、さまざまな低酸素が身体に及ぼす影響について運動生理学をはじめ様々な分野から講義をうけますが、その際に必ず出てくるHIF (低酸素誘導因子) 。たんぱく質の一種なのですが、酸素が足りない状況になった時にそれに反応して身体を維持しようとする鍵となる物質です。
このHIFを発見をした米英の3研究者がノーベル医学生理学賞を受賞しました。 が、このタンパクの発見自体は1990年代。実に20年以上前なのです。
HIF発見後、さらにさまざまな研究がされ、HIFは人間の身体に大きな影響を及ぼしていることがわかってきています。ノーベル賞を受賞するくらい大きな発見であったわけです。
人が高地や低酸素にした部屋(SSOLの低酸素室はこれ)にいることで低酸素状態になったとき、酸素を多く取り入れるために赤血球や毛細血管を増やそうとしたり、より少ない酸素で効果的にエネルギーを生成しようとしたりします。この反応を促し、コントロールする鍵となるのがHIFです。スポーツパフォーマンスをあげるにはこの反応を利用しています。
このほかにもHIFは 様々な生理現象の調節に関わっていいます。
例えば、がん細胞は細胞レベルで頻繁に低酸素状態になり、HIFが活性化して低酸素に適応してがん細胞の生き残りを助けようとします。これは人間にとってはマイナスですが、逆にこのHIFをターゲットにしたがん治療が有望視されています。
またHIFの造血作用に注目した貧血治療。心筋梗塞や脳梗塞など血流が失われることで起きる低酸素の時のHIFの働きを利用した治療。また胎児は低酸素状態にあり、個体生成時にもHIFが血管や血液の生成に関与することもわかっています。
人間の身体には、細胞レベルで低酸素になっている場所があり、HIFが発見されたことにより、これらの低酸素状態の細胞が存在する疾患などの研究や治療法に大きく影響を与えたと言えるでしょう。
低酸素トレーニングは細胞レベルで起きる反応を利用したトレーニングです。ゆえに低酸素トレーニングが環境ドーピングとして議論されたこともあります。
今回のノーベル賞で注目を集めるかもしれませんが、 HIFと低酸素トレーニングの関連はかなり前から研究されており、また、現在も様々な研究が行われている分野です。
低酸素トレーニングを提供する側としても、常により正しく、新しい知識を取り入れていくことが大切だと考えています。
By 低酸素シニアトレーナー Ariga